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WEBコンテンツのクオリティを上げる校正・校閲の基本とコツ1/2回

こんにちは。編集者の島田です。
WEBライティングの世界では昨今、コンテンツのクオリティアップが強く求められるようになってきました。今回は紙媒体出身の編集者の視点から、WEBのコンテンツのクオリティアップに役立つ校正・校閲のスキルを2回に渡ってご紹介したいと思います。
1回目は「校正・校閲とは何か、それを行う価値と行わない場合のリスクについて」。
2回目は「プロでない人が実際に校正・校閲を行う際のコツについて」。
校正・校閲についてきちんと学んだことがない編集者やライターはもちろん、文字を扱いチェックをする立場でもあるディレクターの方々もぜひ読んで実践してみてください。

校正と校閲の意味の違い

最初に校正(こうせい)と校閲(こうえつ)という言葉の意味をご紹介します。
紙媒体で仕事の経験がある人は、ライターやエディターはもちろん、デザイナーやディレクターであっても「校正・校閲」という言葉の意味と作業内容、その価値(というより、おろそかにした場合の恐さ)を嫌というほど叩き込まれていると思います。「紙は一度印刷してしまうと容易に直すことは出来ない」媒体ですので当然ですね。
一方でWEBの制作現場では、「最悪の場合、リリースしてからも修正は可能」なものが多いためか、紙の現場ほど校正・校閲への意識はシビアではないように思います。しかし、WEBといえどコンテンツに求められる精度は年々高まってきているのが実情で、「校正・校閲ってよくわからない」という方はこの機会にぜひその意味と価値を知ってほしいと思います。

ちなみに私の編集人生の中で目撃した最大の校正ミスは、ある女性誌の編集部で学生バイトをしていた時のこと。当時人気だったその女性誌の表紙に踊ったジャニーズのトップアイドルの名前が一字間違ってた! というものです。例えて言うなら「木村拓哉」が「木材拓哉」になっていたようなもんですね。校正・校閲さんがいて進行担当(校正担当)デスクまでいる中で起きたミラクルミスに、担当者はもちろん編集部全体に激震が走ったのを覚えています。と同時に「人間はミスをする。起こりえないことが起こるのが文字媒体なのだ」という教訓を肝に銘じた出来事でした。

校正とは

作成された印刷物やコンテンツの字句や内容、体裁、色彩の誤りや不具合を、完成させる前に見つけて訂正・修正すること。
「校正」というと本来は色味やデザイン的な正誤の確認も含まれますが、「文字校正」というと対象が文字だけになります。しかし、業界やシチュエーションによって「校正」の意味するところや実際行う作業は変わってきます。
今回は文字コンテンツを対象にした「文字校正」に限定して説明を続けます。

校閲とは

作成された印刷物やコンテンツの原稿内容の誤りや不具合を、完成させる前に見つけて訂正・修正すること。
つまり、校正は主に文字使いが正しいか否か、校閲は内容が正しいか否かを見つける作業工程ということになります。

校正と校閲の違いを実例で見ると

ではさっそく、校正と校閲の違いを実例をもとに見てみましょう。

 

【例文】

京都市北区にある賀茂別雷神社(かもわけいかづちじんじゃ)、通称上賀茂神社(かみがもじんじや)の祭神は賀茂別雷大神 (かもわけいかづちのおおかみ)。一方、右京区にある賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)、通称下加茂神社〈しもがもじんじゃ)が祀る神は2つで、東殿が賀茂別雷命(上賀茂神社の祭神)の母で玉依姫命(たまよりひめのみこと)、西殿が玉依姫命の父で賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)です。
両社はともに賀茂氏の氏神を祭る神社であり、賀茂神社(賀茂社)と総称されます。
特に両社で催す賀茂祭(通称 葵祭)で有名です。

 

上記例文を文字校正すると、このようになります。

  1. 誤:(かみがもじんじや)→ 正:(かみがもじんじゃ
    ⇒ じゃの最後の文字が「や」となっているのは間違いで、正しくは拗音「ゃ」
  2. 誤:神は2つで → 正:神は2柱で or神は二柱で 
    ⇒神様を数える単位は「柱」。また、数字を使うか、漢数字を使うかは、文章内の統一に従う。
  3. 誤:氏神をる → 正:氏神を
    ⇒祭ると祀るは同じ意味なのでどちらを使ってもよいが、前出に「祀る」とあるので、どちらかに統一する。

上記例文を校閲すると、このようになります。

  1. 誤:京区にある → 正:京区にある
    ⇒所在地や住所は必ず裏を取る。
  2. 誤:通称下加茂神社 → 正:通称下鴨神社
    ⇒固有名詞は最も間違えてはいけない内容なので、必ず確認する。また、賀茂御祖神社は通称の場合のみ「下鴨」と表記する特殊な例。通常なら上に合わせて「下加茂」なのだろうと思うが、こうした「思い込み」が間違えを呼ぶ実例をいくつか覚えておき、警戒心をもって校閲することが大切。
  3. 特記:神社名について、正式名称が前にきているが、非常に煩雑であり、媒体と文章の主旨によっては通称だけで書いたほうがわかりやすいかもしれない。葵祭についても同様。
    ⇒校閲は「第三者として文章を読んだ際にわかりづらい、誤解を招く恐れがある」ことに関して、編集の範疇にかかることに踏み込み意見をつける場合もある。その際は正誤というよりは、特記事項として編集担当者か筆者に確認をしてもらうようにする。

これらは校正・校閲のほんの一端に過ぎません。実際はもっともっと細かいことをチェックしていきます。

校正・校閲さんの時給はメチャ高!

上記実例を見て、校正・校閲という作業の雰囲気はわかっていただけたと思いますが、正直、かなりの根気と専門性が必要な仕事です。
特に校閲は、医療や法律、経済、各種の論文など対象となる文章が取り扱う分野によっては、その世界に通じた人でないとまともな校閲はできません。
テキストが広告商材を扱う場合は、薬事法や景表法といった法律に違反していないかを判断できないと、最悪の場合、法律違反につながる場合もあるのです。
こうした専門性が求められる業界だけに、仕事を依頼をすると高額にもなります。

ある校正・校閲の資格セミナーのサイトにあった相場を参考に見てみましょう。

「校正の内容によっても料金相場は変わってきます」という前提で

  • 文字の間違いだけの校正 :1,000円程度@400字 
  • 文法的な間違いも含んだ校正 :2,000円程度@400字
  • 文章の内容の裏づけ(校閲)も含んだ校正 :3,000~5,000円@400字

とあります。
他の資料を見てみると上限はもう少し高い場合もあるようですが、おおむねこんな感じです。

例えばこのブログ記事。4,000文字として計算すると、ミニマムな文字校正だけでも校正を依頼すると10,000円かかります。
原稿料のことを考えると、かなりお高いですね。

つまり、校正・校閲にはそれだけの価値があるということなのです。
WEBの制作現場ではプロの校正・校閲に仕事を依頼することはまれで、ライターないしは編集者、あるいはディレクターや場合によってはデザイナーがテキストを作成・確認するのが通常です。

その際にもちろん、文章やコピーが間違っていないかの確認(校正・校閲)作業をするのですが、その作業がこれほどの価値を持つものである、言い換えれば、間違うとそれ以上のリスクがあることを認識しておくことが大切です。

校正・校閲をしないことで被るリスク

コンテンツに誤りがあると、どんなことを引き起こしてしまうのか具体的に見ていきましょう。

誤りがクライアントやユーザーへ致命傷を与えるケース

●取扱い説明書
●レシピ、ハウツーといった指南書の類

取扱い説明書やレシピや各種の指南書は、誤りがそのままユーザーの行動の失敗につながります。製品が使えなかったり、塩辛いケーキができるだけでも大問題ですが、それが薬や医療機器の説明書であれば人命に係わる一大事につながりかねません。

●地図・住所・電話番号・メールアドレスなどの情報

当たり前ですが、情報に誤りがあるとユーザーに誤った行動をとらせることになり、トラブルを引き起こします。
電話番号の間違いは迷惑電話に直結します。
住所や地図の間違いはユーザーの目的達成を阻み、現場を大混乱に陥れます。

●金銭や取引に関るもの、保存性・公共性の高いもの

PCやスマホのアプリケーションをダウンロードするたびに、なんらかの約款の「同意する」ボタンをクリックしますが、きちんと読んでる人はいますか? ふつうは読みませんよね。しかしあれはいわゆる使用者と提供者の間で交わす「契約書」であり、情報流出といった被害が出ればとたんに裁判の際の証拠にもなります。大半が読まれないからといって誤りは許されません。
また、近年は公的な手続きを含む、様々な書類をWEB上からダウンロード&プリントアウトして使用する形態も一般的になりました。こうした書類上の文字に誤りがあるのは許されないことですね。

誤りが自身のブランドや信頼を傷つけるケース

●自社発信のツイッターやFacebook、ブログやオウンドメディアのコンテンツ

最近は企業でもオウンドメディアやブログで発信した情報を拡散したり顧客とのコミュニケーションをはかるツールとして、ツイッターやFacebookを運営するのが常識となりました。一概には言えませんが、SNS媒体というのはどうしてもメインサイトよりもカジュアルなイメージがあります。
コンテンツ更新の担当者が一人しかいない、あるいはその逆で、記事の投稿者が複数人いて、校正・校閲はおろか、筆者以外の目が通っていない原稿がそのまま掲載されるというケースもあるのではないかと思います。
担当者がどういうスタンスであろうが、企業の看板を背負って発言する限りはつぶやき一つであっても、「企業の発表」として捉えられるわけで、社会的同義に反する発言をしたり、誤字脱字が多いと、ブランドイメージを落とすだけでなく、「信用ならない企業」という烙印を押され、構築してきたものを一瞬にして失うことさえあるのです。

また、情報の拡散のスピードが極端に早いものなどは、WEBのメリットである「後から修正」という方法が使えないケースも増えてきました。
確認したつもりなのに、とんでもなく恥ずかしい誤変換をしたままうっかりツイート。しばらくして気付いたときには「〇〇広報のツイッターの恥ずかしい誤変換にワロタ」などとリツイートされまくり、後の祭り。削除してもご丁寧にキャプチャ画像にされていて、なおも拡散され続ける…といった蟻地獄に陥る可能性だってあるのです。
とはいえ、ツイッターのつぶやきや、LINE@でのやりとりのひとつ一つにまで校正をかけるのは現実的には難しいものがありますので、ぜひ、担当者や書き手自身が「校正・校閲の目をもってチェックする」ということを習慣化してもらいたいと思います。

●クライアントから受注したもの

必要性というよりは社会的責任として、クライアントからお金をいただいて納品するものはしっかり校正・校閲されているべきでしょう。
編集者という職業柄、テキストの校正・校閲は自分の仕事だと思っていますが、あまりにも誤字脱字が多い原稿を納品されると「この原稿、大事にされてないんだな」と感じます。さらに萎えるのは内容の裏が取れていないことを堂々と原稿にしてしまうケース。正直、以後のおつきあいを控えたくなります。

おわりに

いかがでしょうか。校正・校閲は難しそうだけど大事らしいということがわかっていただけましたでしょうか。
次回は「難しそう」を「これならできる」に転換する校正・校閲のポイントをお伝えします。

 【参考】ライター&ディレクターでもすぐできる! WEBコンテンツの校正・校閲の基本とコツ2/2回